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森田真生さんから刊行記念トークライブについてメッセージをいただきました

更新日:2021年10月7日


 

 宇宙の辺境に浮かぶ、比較的小さな恒星のまわりを、僕たちは今日もぐるぐると回っている。微生物や植物たちが大気中に溜め込んできた温室効果ガスのおかげで、脆弱な人間でも生きられるほど地上は暖かい。広大な宇宙のなか、なぜか奇跡的に生き物が住める星の表面で、僕は今日も深く息を吸う。


 科学の力がなければ僕たちは、小さな自己の存在の彼方に、一千億もの銀河を感じることはなかっただろう。科学の成果なくして僕たちは、自分のからだの至るところに住み着く何兆もの生物を想像することはできなかっただろう。顕微鏡を覗き、素粒子を衝突させ合い、大地を掘り起こし、宇宙に機械を飛ばしながら、僕たちはいまだかつてなく多様な空間と時間のスケールで、地球に触ることができるようになった。


 化石燃料や鉄鉱石を掘り起こし、地上の環境を改変していく。目に見えない地球深部との接触は、生きるという経験の戦慄と感動を、新しい次元で呼び覚ましていく。だが同時に、僕たちは地上の風景を、誰も経験したことのない速度で撹乱している。ソクラテスや孔子が夢にも思わなかったような仕方で、僕たちは銀河と細胞の複雑性を自覚し、地上の生態系や大気の組成をかき乱している。地球の表面を触っているだけの時代の言葉と思考のままでは、きっと心が壊れてしまうだろう。


 僕たちは地球の深部とのダンスに耐えられるような、新たな自画像を描き出していく必要がある。様々な人間と人間以外のものたちに学び、激動する世界でいきいきと踊るための、新しい動きを身につけていくのだ。


 昨年の11月に周防大島の中村明珍さんとともに「生命ラジオ」を始めた。「踊る農家(ダンサー・イン・ザ・ファーム)」こと明珍さんとともに、ただ「生きる」ことを正面から考え続ける、新しい学びの場を始めようということになった。ありがたいことに、国内外からたくさんの参加者が集い、ちょっと奇跡のような学びの場が育まれてきた。農家、アーティスト、教師、会社員、親、宗教家、学生などなど、参加者のバックグラウンドはそれぞれだが、ここではとにかく「どう生きるか」だけが主題だ。この場所があったからこそ、僕はこの一年、思考し、行動し、失敗し、間違え、傷つき、立ち止まり、また歩き出していくことにいつも前向きであれた。地球が太陽のまわりをぐるぐる回っているように、週に一度、また同じ場所に帰ってくることが、生活に「季節」をもたらしてくれているように感じる。


 9月24日に『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』という本を出すことができた。この本のなかで綴られている思考の少なからぬ部分が、生命ラジオでの学びと出会いから育まれたものだ。今回、この本の刊行からちょうど一ヶ月の日に、生命ラジオの公開収録をイメージして、周防大島の中村明珍さんと、本書にも登場する農家の宮田正樹さんとともに、対話の場を開くことになった。


 生きるという経験の戦慄と感動がいまだかつてなく深化しているこの時代に、心を壊さず、しかも感じることをやめないで生きていくために、僕たちはどう生きるか。この問いを分かち合い、ともに考えていくことができるみなさんとの出会いを心から楽しみにしています。


10月7日 森田真生



 

開催にあたって・中村明珍より


普段何気なく「よし」としたり、無意識に受け入れているあり方や言葉が、一つ一つ反転、転回していく。 森田さんと出会った2014年以来、数々のライブのとき、また発表される著書を通じて、そういう瞬間に居合わせる。そんな体験がたくさんありました。 いま生きている最中にも「あ、あのときのあの言葉…」とふっと訪れる。時間が経っていても、ベストの時機を待ったかのように学びが起こる。そのたびに救われています。 落ち葉を踏んだときの音、葉のすき間から差し込む光。見えないほどの小さな生き物の賑わい。とてつもなく広がる宇宙への眼差し。 周防大島にて「数学の演奏会 Talk&Walk Live」や「周防大島サマースクール」「偶然の宴」といったライブをともに作ってきましたが、この1年はさらに、流れにゆだねるようにオンラインでの取り組みに移行して「周防大島ゼミ」、それを展開して音声配信を通して毎週重ねていく学びの場、その名もラジオ・コミュニティ「生命ラジオ」をスタートしました。 そしてつい先日。発表されたばかりの新刊「僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回」にこの一年のドキュメントとともに過去から未来へと行き来し、さまざまな場とスケールから始まっていく思考が綴られています。 その文中、数多く出てくる方々の1人に、周防大島の農家の宮田正樹さんという存在があります。 本の中にある一節。その瞬間は、森田さんがはじめて島に来た日、2015年の春のことで、幸運にも僕も居合わせておりました。 土、不耕起、自然農、協生農法、謙虚、観察、感謝… 周防大島で毎日土に触れて、植物と協奏し、恵みをいただき、野菜を育ててきた「野の畑 みやた農園」宮田さん。ちょうど一年前から僕は時折みやた農園をお手伝いにいくようにもなりました(というか学ばせてもらっています)。 その宮田さんと森田さんが呼応し、セッションする今回のトークライブ。音楽で言ったら「ジャムる」ということかもしれません。ジャムという言葉もそういえば、もともとは「食べる」分野から来ていますね。 「生命ラジオ」では毎週の積み重ねによって、本当にさまざまな言葉に新たな魂が宿っていきました。「依存」「屈辱」「偽善」「弱さ」…。 そしてある時は、音声を通しての「味噌づくり」までも楽しみました。 ラジオで語られたなかで、僕にとって印象深いこんな一言もあります。 「自分のペースで息をする」 この一見何気ない言葉は、僕にとってものすごい支えとなるように響いてきました。もしかしたら、多くの人にとってもそうかもしれない。 「生命」ってきっとそうだよな、と。 また、本の中で印象的だったことの一つ。森田さんは、 「人間は、もっと下へ、大地へと、自分たちの地位を引き下げていい」 「土と触れ合う時間に、たしかに僕はほっとするやすらぎを覚える」 とする一方で、 「土や土地にしがみつこうとする危うさについても、考えずにはいられない」 と語ります。 この、どちらにも固定しないあり方。宙づりのところにこそ、余白、すきま、息をするスペースができる。動きが生まれる。そうであれば、時には「うた」も歌いたくなるものかもしれない、と思いました。 このライブ、森田さん宮田さんとまみえた対話では、例えば僕が宙づりになってみたい(考えてみたい)と思ったのは、「耕す」(→Cultivete→文化)ことと「耕されていない」(→Jungle)ということなど。そんな言葉や行いについて、ふと思い浮かべました。 最後にQ&Aもある予定ですので、皆さんが疑問に思うことなども、ぜひ寄せてください。 僕もある生命として、森田さんと宮田さんと皆さんの間をふわふわと行ったり来たりしながら、貴重なこの日の機会、全身を開いて楽しみながら、お届けしたいと思っています。ぜひ交わっていただけたらうれしいです。


 

生命ラジオ」×『僕たちはどう生きるか』刊行記念トークライブ

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